神戸地方裁判所 平成3年(ワ)1010号 判決 1993年1月27日
原告
小沢昭治
被告
水守哲
主文
一 被告は、原告に対し、金五八五万八三〇四円及びこれに対する昭和六二年七月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の、その三を被告の、各負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六二年七月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和六二年七月一三日午後一一時四五分
(二) 場所 神戸市垂水区向陽一丁目一番二〇号先県道長坂垂水線交差点
(三) 加害(被告)車 被告運転の原動機付自転車
(四) 被害(原告)車 原告運転の自動二輪車
(五) 事故態様 原告が原告車を運転し北方から南方に向け本件交差点内に進入したところ、被告運転の被告車が東方より西方に向け同交差点内に進入し、両車両が衝突した(以下、本件事故という。)。
2 被告の責任
(一) 被告は、本件事故当時、被告車を保有していた。
よつて、被告には、自賠法三条により、原告の後記損害を賠償すべき責任がある。
3 原告の傷害及び治療経過
(一) 傷病名 両大腿骨開放性骨折、右下腿骨開放性骨折、右第一、二踏抜爪、睾丸脱出、第一〇胸椎骨折、左第九肋骨骨折、左月状骨脱臼、左膝蓋腱断裂、側彎
(二) 治療経過
(1) 入院
(イ) 神戸市立中央市民病院
昭和六二年七月一三日から同年一二月一九日まで(合計一五八日)。
(ロ) みどり病院
昭和六二年一二月一九日から昭和六三年六月一八日まで(合計一八三日)。
(ハ) 神戸市立中央市民病院(再入院)
平成二年六月六日から同月一七日まで(合計一二日)。
(2) 通院
(イ) 神戸市立中央市民病院
昭和六二年一二月二八日から平成元年六月九日まで(実治療日数一七日)。
(ロ) みどり病院
昭和六三年六月二〇日から同月三〇日まで(実治療日数五日)。
(ハ) 神戸市立中央市民病院
平成二年六月二二日から同年九月二六日まで(実治療日数二四日)。
(3) 症状固定
昭和六三年八月二六日
(4) 後遺障害
障害等級七級該当の後遺障害が残在。
4 損害
(一) 治療費(ただし、自己負担分) 金八五万九五一〇円
(二) 入院雑費(一日につき金一〇〇〇円の割合) 金三五万三〇〇〇円
(三) 付添看護費 金八六万四〇〇〇円
近親者の昭和六二年七月二四日から昭和六三年一月三一日まで一九二日間の付添い(日額金四五〇〇円の割合)。
(四) 通院交通費 金一一万六七二〇円
(1) 原告は、昭和六二年一二月一九日から昭和六三年六月一〇日までの間にみどり病院から中央市民病院への通院として往復八回タクシーを利用(一回当たりの料金金一万円)した。
(2) 原告は昭和六三年六月二四日から平成二年九月二六日までの間に自宅から神戸市立中央市民病院へ往復三六回JRとポートライナーを利用(一回当たりの料金金一〇二〇円)した。
(五) 休業損害 金三五六万三九八〇円
原告は、本件事故当時大阪エアポートホテルの施設係として勤務し平均月額金二〇万三六五六円(事故前三か月分の受給額金六一万〇九六九円の平均額)を得ていたが、同事故により昭和六二年七月一四日から昭和六三年一二月三一日までの間(一七・五か月間)休業を余儀なくされ、その間無収入であつた。
したがつて、原告の本件休業損害は、金三五六万三九八〇円となる。
(六) 後遺障害による逸失利益 金一三六八万六三二七円
(1) 原告に障害等級七級該当の後遺障害が存在することは、前記のとおりである。
原告の右後遺障害による労働能力喪失率は五六パーセントと、労働能力喪失期間一〇年(一二〇カ月)というべきである。
(2) 右各事実を基礎として、原告の本件後遺障害による逸失利益を算定すると、金一三六八万六三二七円となる。
20万3656円×120×0.56=1368万6327円
(七) 慰藉料 金一一〇〇万円
本件慰藉料は、傷害分金三〇〇万円、後遺障害分金八〇〇万円、合計金一一〇〇万円が相当である。
(八) 損害の填補
原告は、本件事故後、(1)自賠責保険から金九四九万円(後遺障害関係)の支払いを受けた。(2)原告の本件治療費として、本訴請求外分金一二〇万円が自賠責保険から直接関係病院へ支払われた。(3)社会保険事務所から金五七万八六一五円(傷病手当金)の支払を受けた。そこで、原告は、同受領金金五七万八六一五円も同人の本件損害から控除する。
5 結論
よつて原告は、被告に対し、本件損害額合計金三〇四四万三五三七円から前記損益相殺をした後の金二〇三七万四九二二円の内金一〇〇〇万円及びこれに対する事故日の翌日である昭和六二年七月一四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(本件事故の発生)及び
請求原因2(責任原因=被告における被告車の保有)の各事実は認める。
2 請求原因3(原告の傷害及び治療経過)の各事実はいずれも不知。
3 請求原因4(損害)の事実のうち(八)(1)(2)(損害の填補)の事実は認めるが、同(一)ないし(七)の各事実は争う。
三 抗弁(過失相殺)
1 被告は、本件事故直前、被告車を運転し本件交差点の東西道路を東方から西方へ向けて進行し、本件交差点内をそのまま東方から西方に直進すべく同交差点に差しかかつた。
同人は、その際、対面信号機の表示赤色点滅にしたがつて同交差点の中心附近から東方約一七・九メートルの地点(路上に設置された一時停止線)附近で自車を一旦停止させ、左右を見た。しかし、同地点では、特に右方(北方。以下同じ。)への見通しが不良なので、被告は、さらに自車を前進させ同一時停止地点から約一一・二メートル前進し同交差点内へ若干進入した地点附近で再度自車を停止させ右方を見た。同人は、その時、同交差点の交差道路の右方約八〇メートルの地点附近に原告車を認めた。
しかし、被告は、その際、原告車との距離がこの程度離れていれば原告車が本件交差点に進入する前に被告車の方が早く同交差点内を通過できるものと判断して被告車を進行させ、原告車に先じて同交差点内に進入した。
ところが、原告車が被告の予想を越えて早く接近してきたため、被告車が本件交差点中央附近に至つた時、同車両の前部が原告車に接触して、本件事故が発生した。
右事実関係から明らかなとおり、被告は、本件事故前、一時停止義務、前方左右方の安全確認義務をいずれも履行しており、被告に本件事故について過失はないというべきである。
2 原告は、本件事故直前、原告車を運転して本件交差点の南北道路を北方から南方へ向け進行し、そのまま本件交差点内を通過しようとした。
しかして、同人には同交差点に進入するに当たり、対面信号機の表示が黄色点滅であり、しかも、被告車が前記のとおり先入していたのであるから同車両を優先的に進行させるべく直ちに制動措置を講じて減速徐行する注意義務があつた。
しかるに、同人は、これを怠り、漫然制限速度四〇キロメートルを越える速度で進行を続け、そのため、本件事故が発生した。
本件事故は、右のとおり原告の過失に基づいて発生したものであるから、同人の本件損害額を算定するに当たつては、同人の右過失を斟酌すべきである。
四 抗弁に対する答弁
1 抗弁事実中原告が本件事故直前原告車を運転して、本件交差点の南北道路を北方から南方へ向け進行しそのまま同交差点内を直進通過しようとしたこと、被告が同事故直前被告車を運転し同交差点の東西道路を東方から西方へ向け進行しそのまま同交差点内を直進通過しようとしたこと、原告車の対面信号機の表示が当時黄色点滅であつたこと、被告車の対面信号機の表示が当時赤色点滅であつたこと、原告も、被告も、自車対面信号機の右各表示を認識していたこと、両車両が同交差点内で衝突したことは認めるが、その余の抗弁事実及びその主張は全て争う。
2 原告車が走行していた本件交差点の南北道路は、当時、殆どの車両が時速六〇キロメートル前後の速度で走行しており、同交差点の東西道路から進入してくる車両が殆どない状況のもとでは、原告車の走行方法は特に非難に値するものではない。
また、本件事件当時、原告車が走行していた右南北道路の信号機の表示は黄色点滅で被告車が進行していた右東西道路の信号機の表示は赤色点滅であつたから、原告車に走行の優先権があり、被告としては優先道路を通行する原告車の通行を妨害してはならない義務を負つていた。それにもかかわらず、被告は、被告車の一時停止もせず、前方左右の注意を怠り漫然自車を本件交差点内に進行させ、原告車の通行を妨害した過失により本件事故を発生させた。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一1 請求原因1(本件事故の発生)、同2(被告の本件責任原因=被告車の保有者)の各事実は、当事者間に争いがない。
2 右各事実に基づけば、被告には自賠法三条に基づき、原告が本件事故により被つた損害を賠償する責任があるというべきである。
二 原告の本件受傷内容及びその治療経過
成立に争いのない甲第四ないし第一一号証、第一四号証、第二〇号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一五号証の一ないし三、原告本人の右供述及び弁論の全趣旨を総合すると、原告の本件受傷内容及びその治療経過として次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。
1 原告の本件受傷内容
原告は、本件事故により次の傷害を受けた。
両側大腿骨々折(開放性)、右下腿骨々折(開放性)、左手舟状骨々折、第一〇胸椎圧迫骨折、左膝蓋靱帯切断、左肋骨々折、右母趾切断、右第二趾切断。
2 本件受傷の治療経過
(一) 入院
(1) 神戸市立中央市民病院
昭和六二年七月一三日から同年一二月一九日まで(合計一五八日)。
(2) みどり病院
昭和六二年一二月一九日から昭和六三年六月一八日まで(合計一八三日)。
なお、右入院は、右病院においてリハビリテーシヨンを行うため神戸市立中央市民病院の担当主治医の指示で行われたものである。
原告は、みどり病院へ入院しながら神戸市立中央市民病院へ通院し治療を受けた。
(3) 神戸市立中央市民病院
平成二年六月六日から同月一七日まで(合計一二日)。
なお、右入院は、右病院において昭和六二年七月三〇日行われた左舟状骨々折整復固定手術により原告の左橈側手関節内に残在していたKワイヤーの除去手術を受けるためのものであつた。
(二) 通院
(1) 神戸市立中央市民病院
昭和六二年一二月二八日から平成元年六月九日まで(実治療日数一七日)。
(2) みどり病院
昭和六三年六月二〇日から同月三〇日まで(実治療日数五日)。
(3) 神戸市立中央市民病院
平成二年六月二二日から同年九月二六日まで(実治療日数二四日)。
なお、右通院は、前記再入院して受けた前記手術の術後治療のためのものである。
(三) 右認定各事実を総合すると、原告の本件受傷に対する治療は全て、本件事故と相当因果関係に立つものと認めるのが相当である。
3 症状固定日
昭和六三年八月二六日
4 後遺障害の内容及び程度
原告には本件後遺障害が残存するところ、その内容及び程度は、次のとおりである。
(一) 内容
(1) 自覚症状
歩行開始時腰痛背部痛、左手屈曲障害、握力低下、左肋間神経痛、両膝の屈曲障害、しやがむ動作不能、跛行あり、右母趾の爪の変形による疼痛、両膝部痛、左母指運動時痛等。
(2) 他覚症状及び検査結果
左手関節の運動制限と筋力低下、左母指の運動制限、両膝の筋力低下と運動制限、右大腿骨々折の変形治癒、右下腿骨々折の変形治癒、右母趾の運動制限と末節切断による爪の変形、第一〇胸椎部打痛、傍背柱筋部圧痛、右下肢の植皮部に知覚なし。
背柱の障害
三〇度の屈曲変形。
運動障害
胸腰椎部。
前後屈各一〇度、左右屈各一五度、左右回旋各二〇度。
短縮
右下肢長八七センチメートル、左下肢長八四センチメートル。原因 左大腿骨々折(骨欠損のため)。
長管骨の変形(変形癒合)
右大腿骨外反、内旋変形。
関節機能障害
肢
伸展 他動・自動とも右左〇度
屈曲 他動・自動とも右一三〇度、左一二五度。
膝
伸展 他動・自動とも右左〇度
屈曲 他動・自動とも右一三〇度、左一一五度。
手関節
背屈 他動・自動とも右九〇度、左六〇度。
掌屈 他動・自動とも右九〇度、左四五度。
母趾
屈曲(MP) 他動・自動とも右二〇度、左八〇度。
屈曲(IP) 他動・自動とも右一〇度、左七〇度。
(3) 障害内容の憎悪、緩解の見通し
本件後遺障害が軽快する見込みは全くなく、胸椎骨折による背部痛、両膝の変形性関節症については憎悪する可能性が強い。
(二) 程度
障害等級七級該当
三 原告の本件損害
1 治療費 金八五万九五一〇円
(一) 原告の前記各病院における全治療が本件事故と相当因果関係に立つものであることは、前記認定説示のとおりである。
(二) 前掲甲第七ないし第一一号証、原告本人尋問の結果を総合すると、原告が本件受傷治療のため次の費用(ただし、自己負担分。)を要したことが認められ、右認定に反する被告本人尋問の結果はにわかに信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
なお、被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第七号証の記載内容は、客観性を欠きにわかに信用することができず、未だ右認定を覆えすに至らない。(乙第七号証、及び被告本人の供述に関する右説示は、後記各損害費目に対する認定説示についてもそのまま妥当する。)
神戸市立中央市民病院 金七二万二四三〇円
みどり病院 金一三万七〇八〇円
合計 金八五万九五一〇円
(三) 右認定説示を総合し、右治療費合計金八五万九五一〇円は、本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下、本件損害という。)と認める。
2 入院雑費 金三五万二〇〇〇円
(一) 原告の本件入院日数の実質合計が三五二日であることは、前記認定のとおりである。
(二) 弁論の全趣旨によれば、原告は右入院期間中雑費を支出したことが認められるところ、本件損害としての入院雑費は、右入院期間中一日当たり金一〇〇〇円の割合による合計金三五万二〇〇〇円と認める。
3 付添看護費 金八六万四〇〇〇円
(一) 原告の本件受傷内容及びその治療経過、特に入院先病院及びその期間は、前記認定のとおりである。
(二) 成立に争いのない甲第五号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一六号証の一ないし四、甲第一七号証、原告本人の右供述及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、前記入院期間中の昭和六二年七月二四日から昭和六三年一月三一日までの合計一九二日間近親者(主として両親)の付添看護を受けたこと、原告は、同付添看護を受けた入院期間中本件受傷のため身動きができず、入浴時に限らず日常における身の回りの世話の全てを第三者に頼らざるを得なかつたこと、同人は、そのため同人の近親者の付添看護を受けたこと、原告は、特に、みどり病院における前記入院期間中の昭和六二年一二月一九日から昭和六三年一月三一日までの間、同病院担当医から付添看護の指示を受けたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(三) 原告が同人の近親者の付添看護を受けた右認定にかかる入院期間中神戸市立中央市民病院分については同人の本件受傷内容から、みどり病院分については同病院担当医の指示によるものであるから、同近親者の原告に対する付添看護は、いずれも本件事故と相当因果関係に立つものと認めるのが相当である。
(四) 右認定説示から、原告の近親者による本件付添看護に要した費用(ただし、一名分。)も本件損害と認めるのが相当であるところ、同付添看護費は、右付添看護期間中一日当たり金四五〇〇円の割合による合計金八六万四〇〇〇円と認める。
4 通院交通費 金一一万六七二〇円
(一) 原告の本件受傷内容、本件通院状況(通院先病院及びその実治療日数)は、前記認定のとおりである。
(二) 原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一八号証、原告本人の右供述及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、みどり病院から神戸市立中央市民病院へ通院した昭和六二年一二月二八日から昭和六三年六月一〇日までの間、本件受傷内容のため八回(往復)タクシーを使用せざるを得なかつたこと、同タクシー代金は最低片道金五〇〇〇円を要したこと、同人は、昭和六三年六月二四日から平成二年九月二六日までの間三六回(往復)JRとポートライナーを利用して自宅から神戸市立中央市民病院へ通院し、その交通費として片道金五一〇円を要したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(三) 右認定事実を総合すると、原告が右認定にかかる通院に要した交通費も本件損害と認めるのが相当であるところ、その合計額は、金一一万六七二〇円となる。
〔(5000円×2)×8〕+〔(510円×2)×36〕=11万6720円
5 休業損害 金二三九万六一六四円
(一) 原告の本件受傷内容及びその治療経過は、前記認定のとおりである。
(二) 原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一二、第一三号証、第一九号証の一ないし三、原告本人の右供述及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件事故当時、訴外株式会社大阪エアポートホテルの施設係として勤務し、昭和六二年四月ないし六月まで三か月間に合計金六一万〇九六九円の給与を得ていたこと、したがつて、同人の当時における平均日額は金六七八八円(円未満切捨て。)となること、同人は、昭和六二年七月一四日から昭和六三年六月三〇日までの三五三日間、本件受傷治療のため前記会社を欠勤して給与の支給を受け得ず、無収入であつたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(三) 右認定各事実を総合すると、原告には、本件損害としての休業損害の存在が認められるところ、その金額は、金二三九万六一六四円となる。
6 後遺障害による逸失利益 金一〇八七万三一三八円
(一) 原告に本件後遺障害が残存すること、その内容、同後遺障害が障害等級七級に該当することは、前記認定のとおりである。
(二) 前掲甲第六号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件症状固定時二五才(昭和三七年一二月三一日生)の男子で、本件事故前健康であつたこと、同人は、昭和六三年七月一日から前記会社の前記係へ復職就労したが、その後現在まで同会社から支給される前記給与額に減少はないこと、しかしながら、同人は、同復職後、本件後遺障害のため座つたりかがんだりすることができず、階段の昇降・狭い場所への出入りが容易でなく、これらの点が同人の右就労への支障となつていること、同人は、現在、これらの支障を同人の努力で補い業務を遂行していること、それでも、同人の同後遺障害が、同人の将来の昇給、転職、定年退職後の再就職の障害となる可能性があることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(三)(1) 原告に現在本件後遺障害による収入の減少がないことは、前記認定のとおりであり、右認定事実に照らすと、原告に本件障害としての同後遺障害による逸失利益の存在を肯認し得ないかの如くである。
しかしながら、原告には、右認定事実にもかかわらず、本件損害としての本件後遺障害による逸失利益の存在を肯認するのが相当である。
蓋し、後遺障害による逸失利益の存否は、後遺障害の具体的内容に伴う労働能力の低下の程度、収入の変化、将来、昇進・転職・失業等の不利益の可能性、日常生活上の不便等を総合的に考慮してこれを決するのが相当であつて、単に現在の減収不発生から直ちに同逸失利益の不発生を結論するのは相当でないと解するのが相当である。そして、本件において、前記(二)における認定各事実に前記認定の本件後遺障害の具体的内容とその程度及び後記認定にかかる原告の同後遺障害による労働能力の喪失率を加え、これらを右説示にそつて総合的に検討すると、原告に本件後遺障害による逸失利益の存在を肯認するのが相当と結論されるからである。
(2) 右認定説示に基づき、次のとおり認めるのが相当である。
(イ) 原告は、本件後遺障害によりその労働能力を喪失し、それによる実損を被つていると認められるところ、同労働能力の喪失率は、前記認定の各事実を主とし、これに所謂労働能力喪失率表を参酌して、五六パーセントと認める。
(ロ) 右労働能力喪失期間は、少なくとも原告が主張する一〇年間と認める。
(ハ) 本件逸失利益算定の基礎収入は、月額金二〇万三六五六円(円未満四捨五入。以下同じ。)と認める。
(3) 右認定の各事実を基礎資料として、原告の本件後遺障害による逸失利益の現価額を、ホフマン式計算法にしたがい中間利息を控除して算定すると、金一〇八七万三一三八円となる(新ホフマン係数は、七・九四四九。)。
(20万3656円×12)×0.56×7.9449≒1087万3138円
7 慰藉料 金一一〇〇万円
(一) 原告の本件受傷内容及びその治療経過、特にその入通院期間、同人の本件後遺障害の内容及びその程度(障害等級七級該当)等は、前記認定のとおりである。
(二) 右認定各事実を総合すると、原告の本件慰藉料は、合計金一一〇〇万円と認めるのが相当である。
8 原告の右認定損害の合計額 金二六四六万一五三二円
四 過失相殺
1 本件事故の発生及び抗弁事実中原告が本件事故直前原告車を運転して本件交差点の南北道路を北方から南方へ向け進行しそのまま同交差点内を直進しようとしたこと、被告が同事故直前被告車を運転し同交差点の東西道路を東方から西方に向け進行しそのまま同交差点内を直進しようとしたこと、原告車の対面信号機の表示が当時黄色点滅であつたこと、被告車の対面信号機の表示が当時赤色点滅であつたこと、原告も、被告も、自車対面信号機の右各表示を認識していたこと、両車両が同交差点内で衝突したことは、当事者間に争いがない。
2(一) 成立に争いのない乙第一号証の三、第五号証の一ないし一二、撮影対象については争いがなく、被告本人尋問の結果により被告が平成四年七月二日撮影した写真であることが認められる検乙第一ないし第四号証、証人陰平正利の証言、原告、被告各本人尋問の結果の一部及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。
(1) 本件交差点は、南北道路(南方垂水駅方面から北方名谷方面へ通じ、車道中央の分離帯により東西二車道に区分され、東西二車道の幅員はそれぞれ七メートルあり、それぞれがさらに二車線に区分されている。東側車線が南行き、西側車線が北行きである。)と東西道路(東方青山台方面から西方千鳥が丘方面に通じ、東方道路は車道中央の分離帯により南北二車道に区分され、南側車道の幅員は四・八メートル、北側車道の幅員は四・七メートルであり、西方道路は一車道で、その幅員は五・三メートルである。)とがほぼ直角に交差する十字型交差点である。
なお、右交差道路は、いずれも平坦なアスフアルト舗装路である。
(2) 本件交差点の東西南北各入口には横断歩道が設置されており、南北道路中東側車道北側入口の横断歩道北側路上と同西側車道南側入口の横断歩道南側路上に一時停止線が設定されている。
そして、右交差点の四方隅部分には信号機が設置されていて、本件事故当時作動していた(なお、同信号機の表示状況は、前記のとおり当事者間に争いがない。)。
(3) 本件交差点の北東角には民家が存在し、車両が同交差点南北道路東側車道を南進し同交差点内を直進する場合、その運転者にとつて、自車左前方(左右は、車両運転席に着席し前方を見た姿勢を基準とする。以下同じ。)、即ち同交差点東西道路の東方道路方面への見通しは不良であり、車両が同交差点東西道路の東方道路南側車線を西進し同交差点内を直進する場合、その運転者にとつても、自車右前方、即ち同交差点南北道路東側車道方面への見通しは不良である。特に後者の運転者は、同南側車線路上に設定された一時停止線附近で自車を停止させても自車右前方への見通しは不良で、同一時停止線からさらに約一一・二メートル西進して同交差点内に進入してようやく自車左方へは勿論右方への見通しも可能となる。
(4) 本件交差点での制限速度は、同交差点の南北道路・東西道路とも時速四〇キロメートルである。
(5) 本件交差点は、市街地に位置し、本件事故当時の交通量は、一〇分間に車両約七台で、通行人は零であつた。
右交差点附近には、夜間照明が設置されており、したがつて、同交差点内はやや明るいが、同交差点の南北方面は暗かつた。
なお、本件事故当時の天候は曇で、路面は乾燥していた。
(二) 被告は、同人において本件事故直前本件交差点内を西進するに際し進行して来た同交差点東西道路南側車道路上に設定された前記一時停止線附近で被告車を一旦停止させ、左右、特に自車右前方を見たが見通しが悪いので、さらに自車を約一一・二メートル西進させて同交差点内に若干進入した地点附近で再度自車を停止させ右方を見た旨主張している。
しかして、被告の右主張事実(ただし、右主張事実中被告車進行路上の一時停止線から同車両右前方への見通しが不良であること、同見通しが可能になる地点については前記認定のとおりであるから、被告の右主張事実から右認定各事実を除く。)にそう証拠として、成立に争いのない乙第六号証の一中の被告の指示説明部分、被告本人尋問の結果があるが、右文書の右該当部分及び被告本人の供述は、後掲各証拠及びそれに基づく後記認定事実に照らし、にわかに信用することができず、他に被告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。かえつて、前掲乙第一号証の三、成立に争いのない乙第一号証の一、第四号証、証人陰平正利の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、訴外陰平正利(以下、陰平という。)は、本件事故直前、普通貨物自動車(バン)を時速約四〇キロメートルの速度で運転し本件交差点南北道路西側車道の内側車線内を南方から北方に向け進行し、同交差点に接近したのであるが、同車道路上に設定された前記一時停止線の南方約二〇・二メートル附近の地点に至つた時、自車右前約三八・五メートルの地点(同交差点東西道路東方道路上に設定された前記一時停止線からさらに約一一・二メートル西進した地点)附近に、時速約一〇キロメートルの速度で同交差点内に進入して来る被告車を認めたこと、陰平は、その際、被告車が一旦停止したようには見えなかつたこと、同人は、被告が陰平運転の車両に気付かない様子であつたので警笛を鳴らしたが、それでも被告は陰平運転車両に気付かない様子であつたから、そのまま進行すると被告車と衝突する危険があると判断し、自車の速度を落したこと、同人は、それでもなお、被告が陰平運転車両に気付いた様子がなかつたので、被告車の動向を目で追つていたこと、陰平は、自車の警笛を鳴らした際、同車両助手席に同乗していた同人の妻に「一旦停止もせず危いやつだな。」といつたこと、原告は、本件事故直前、原告車を時速約七〇キロメートルの速度で運転して本件交差点南北道路東側車道の内側車線内を北方から南方に向け進行し、同交差点に接近したのであるが、同交差点の北方約一〇〇メートルの地点附近に至つた時、同交差点内を横断する車両を認めなかつたし、その後も同横断車両を認めなかつたこと、そこで、同人は、前方の同交差点附近を見ながら、そのまま従前の速度で自車を進行させたこと、しかし、同人は、自車が同交差点北側入口附近に接近した時、突然被告車が同交差点東側入口方面から原告車の前方(原告は、自車前方約二〇メートルの地点附近と判断した。)へ進出して来たのに驚き、警笛を鳴らし急制動を掛けたが間に合わず、原告車と被告車の各前部が衝突し、本件事故が発生したことが認められ、右認定各事実に照らしても、被告の前記主張事実は、これを肯認するに至らない。
かえつて、右認定各事実を総合すると、被告には、本件事故直前、自車対面信号機の表示が赤色点滅であつたから、自車を一時停止させる義務があつたのにこれを怠り、自車を前記一時停止線附近及び自車右方、即ち本件交差点南北道路東側車道上の見通しが可能となる地点附近で停止させることもなく、しかも、左右の安全を確認せずに、漫然自車を時速約一〇キロメートルの速度で同交差点内へ進入せしめた過失により本件事故を惹起したと推認するのが相当である。
よつて、被告の、同人には本件事故発生に対する過失がない旨の主張は、右認定説示の点で既に理由がない。
(三) 原告が本件事故に遭遇するまでの経緯は、前記認定のとおりである。
しかして、原告車の進行する対面信号機の表示は、本件事故当時、黄色点滅であつたから、原告車を運転する原告には、本件交差点内を通過するに際し自車を徐行させる義務があり、同義務は、被告の前記一時停止義務の存在によつても免除されないと解するのが相当であるところ、右認定事実に基づけば、同人は、本件事故直前、同徐行義務を怠り、漫然自車を時速約七〇キロメートルの速度で進行させた過失により本件事故を発生させたというべきである。
右認定説示に反する原告の主張は、いずれも理由がなく採用できない。
3(一) 右認定説示に基づくと、本件事故の発生には、原告の右過失も寄与しているというべく、したがつて、同人の同過失は、同人の本件損害額の算定に当たり斟酌するのが相当である。結局、被告の過失相殺の抗弁は、理由がある。
(二) しかして、右斟酌する原告の過失割合は、前記認定各事実を総合して認められる本件事実関係に基づき、全体に対して四〇パーセントと認めるのが相当である。
(三) ところで、原告の本件治療中同人の本件治療費として認定した前記金額以外に金一二〇万円が既払いであることは当事者間に争いがない。そこで、紛争の一回的解決の観点から、同既払治療費一二〇万円も前記認定にかかる原告の本件損害金二六四六万一五三二円に加算してその総損害額を金二七六六万一五三二円とし、同金額に対し、前記認定の過失割合で所謂過失相殺を行うのが相当である。
右説示に則し右過失相殺をすると、その後に、原告が被告に請求し得る本件損害は金一六五九万六九一九円となる。
五 損害の填補
原告が本件事故後自賠責保険金金九四九万円を受領し、本件治療費の内金一二〇万円が既払いであることは当事者間に争いがなく、同人が同事故後傷病手当金五七万八六一五円の支払いを受け、これをも同人の本件損害から控除することは、同人の自認するところである。
そこで、右受領金・既払金の合計金一一二六万八六一五円は、本件損害の填補として前記認定の本件損害金一六五九万六九一九円からこれを控除すべきである。
右控除後の本件損害は、金五三二万八三〇四円となる。
六 弁護士費用 金五三万円
弁論の全趣旨によると、原告は被告において本件損害の賠償を任意に履行しないため本訴の提起及びその遂行を弁護士である原告訴訟代理人らに委任し、その際相当額の弁護士費用を支払う旨約したことが認めれるところ、本件訴訟遂行の難易度、前記請求認容額等に照らし、本件損害としての弁護士費用は、金五三万円と認めるのが相当である。
七 結論
1 以上の全認定説示を総合し、原告は、被告に対し、本件損害合計金五八五万八三〇四円及びこれに対する本件事故日の翌日であることが当事者間に争いのない昭和六二年七月一四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める権利を有するというべきである。
2 よつて、原告の本訴請求は、右認定の限度で理由があるから、その範囲内でこれを認容し、その余は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鳥飼英助)